目くばせ、気くばせなどの言葉に使用される「くばせ」とは
元来「くわせ」「くはす/食わす」から変化した言葉である。
目の前の相手と対話するため体内から言葉を引き出そうとする時、
言いよどんだり、つかえたり、途切れたり言い間違えるのは、
自分が伝えたい言葉を対話相手が食べやすいよう形を整えるうちに
溢れてしまう身体の身振りなのかもしれない。
選びきれない言葉、不恰好な声、整わない呼吸が一本の連なりとして
口から吐き出された様子を提示する。
KUNST ARZT では、3年ぶり4度目となる林葵衣の個展を開催します。
林葵衣は、口紅の痕跡絵画や口腔内オブジェを通して、言葉を視覚化するアーティストです。
本展では、口内で硬化させたポリエチレン樹脂製オブジェに「時間」を与える試みです。
口腔内オブジェをワイヤーなどでつなぐことで、その発音された言葉と言葉の間の時間、
無言の時間など、より実際の発話のタイミングを視覚化することが可能となり、
そのワイヤーが複数になることで、対話を再現することも構想しています。
KUNST ARZT 岡本光博
本展では、口から発せられる言葉や声を視覚化する作品を展示しています。 タイトルに名付けた「くばせのつらなり」のくばせとは、平安時代に「目をくはす〔食わせる〕」 という言い方がみられ、これが「目で合図して知らせる」ことだと考えられていると知ったこと から来ています。
相手に自分の言葉を食べさせること。これは、1 人で食べる適当な食事のような、または標本のような 完結した独り言とは異なります。他者と対話することは、身構えたり、姿勢を丁寧にしたり、 言葉を整えながら発したとしても、なまなましく、整わず、どこか不恰好になってしまうものだと 考えています。その姿勢や、声のねじれ、ひずみ、無言の間を造形化したくてこのような作品を 制作しています。
会場に展示されている立体作品は、温めると柔らかくなり冷やすと固まるポリエチレン樹脂を 使用しています。この樹脂を自身の口の中に入れ、一音節や単語などの言葉を発音し、口中の型を取り、 吐き出したものを言葉の彫刻としています。 樹脂と木材やアルミなどの異素材を組み合わせることで言いよどみや言葉に詰まる様子を表現する 《Phonation Piece -Distortion-》シリーズ、あくまでも家族の何気ない会話ですが、仏師である父と 摩利支天尊と呼ばれる仏像について対話している様子を録音し、発話内容を1 人で言い直し、 テグスで吊る事により会話の時間軸、間を同時に再現する《Phonation Piece -DIALOGUE-》、 しゃがみ、あおぎみ、とぶ、という体の動作と制作時の造形や形態、空間での展示方法をリンクさせた 《Phonation Piece -SHAGAMI AOGIMI TOBU-(Distortion)》、樹脂の両サイドから向かい合うように 発声し型取りを行った《Phonation Piece -FURERU-》、言葉遊びのしりとりは最後と最初が同じであり、 造形として接続が容易で、単語を積み上げやすいことから着想した《Phonation Piece -SIRITORI-》を 展示しています。
樹脂の色彩は、熱を加え柔らかくする際に、透明色と色付きの樹脂を同時に混ぜ 造形しています。色付けをすることで発話する人物や、単語ごとの見分けを行うことができ、かつ 彫刻内部の造形が見えやすくなります。
意味をなさない言い間違い、1 分にも満たないささやかな対話の時間や、他愛ない言葉遊びの しりとりをモチーフとすることは、自分が暮らす様々な外部環境の影響を受けたうえで、尚且つ発される、 自分自身を発信源とする個人的な声であることを何よりも重視しているからです。
