声は、過去を想像させ、時間を遡らせてくれる。
2017年6月に舞台美術を務めた演劇で、テレサ・ハッキョン・チャというアーティストが書いた「ディクテ」というテクストに出会った。韓国に生まれ、アメリカに逃れ生きた彼女は、母国の歴史や複数の言語、声を生きる中で変容する身体、アイデンティティの探求を、書物という形で残した。「ディクテ」に触れることで、ルーツを探る、時間を遡るという行為に心惹かれた。過去を見つめると、現在をとりまく環境、そして自身が、より鮮明に見えてくる。タイムカプセルを開き、また閉じたあとに見る景色は、以前見ていた景色よりも、奥行きが生まれている。
タイムカプセルに閉じ込めるように、声を保存する。
KUNST ARZT では、林葵衣の個展を開催します。
林葵衣は、光や音などを視覚化する試みを通して、世界のありようを見つめるアーティストです。本展は、声を出しながら口をキャンバスにあて、口紅の痕跡をタブロー化する“唇拓”のphonationシリーズからの構成です。
KUNST ARZTのある建物のオーナーらへの取材を通して得た「土地の記憶」をベースに、発音内容を構成、“唇拓”したタブローなどの構想です。
一見、キスマークが溢れているような印象ですが、実際は薄い唇の皮を酷使する過酷なパフォーマンスであり、そのギャップも魅力です。
ご注目頂ければ幸いです。(KUNSTARZT 岡本光博)
「声の痕跡|Traces of voice」
会期|2017年7月8日(土)-16日(日)
時間|12:00-18:00 (月曜休廊)
会場|KUNST ARZT
フライヤーデザイン|平野 新 (typoesie)
会場記録|守屋 友樹